溶接・接合は、ものづくりにとって必要不可欠な基盤技術であり、あらゆる製造業において活用されています。
しかし現在日本では、製造拠点の海外移転による産業の空洞化、若年者を中心としたものづくり離れ、さらには熟練技能者の高齢化により、高精度・高品質
製品の製造、新製品の開発や整備等を担うべき優れた熟練技能の継承が困難になりつつあり、産業の発展に重大な影響を及ぼすことが懸念されています。
そこで今回は、溶接の高度技能者にスポットをあて、機械製造部門の川崎俊幸さんにお話を伺いました。
高度な技術を必要とする溶接にはどのようなものがあるのでしょうか?
溶接は様々な組み合わせによって難易度が異なります。TIG溶接、アーク溶接、半自動溶接などの溶接の“種類”。裏波溶接等の溶接の“手法”。また溶接するモノの材料によっても、異種材料(鉄とステンレスなど)の溶接によっても必要な技術が違ってきます。
特にアーク溶接によって裏波溶接をする場合などは非常に高度な技術が必要になり、社内でもそれを完璧にできるのは4人ぐらいしかいません。
川崎さんが溶接技術者になろうと思ったキッカケを教えて下さい。
私たちが就職した時代は造船業が盛んで,やはり手に職をつけている人は就職の面でも待遇の面でも強かった。最初に勤めた会社で溶接の仕事をしていたのですが,技術を持っている人と持っていない人は労働条件が全然違ったんです。
技術を持っていないと,まともに食っていける時代じゃなかった。だから溶接の技術を一心に磨いていくことを考えながら毎日仕事をしていました。
苦労したことはどんなことですか?
昔の職人さんは、自分の技術が他の人にもできるようになってしまうことを嫌がり、基本的なことは教えてくれても高度な技術は教えてくれませんでした。
職人さんが高度な技術を必要とする溶接をやっている時に、仕事を“盗み”に見に行っても、作業を止めてしまうんです。だから自分自身で様々な工夫をしてい
くしかありませんでした。
それでは今後の目標や課題について教えてください。
当面の課題は後進の育成ですね。私たちが若い頃は、怒鳴られて、時には手も出されながら教育を受けてきましたが、今はそんな時代じゃありません。一応
は溶接のマニュアルがありますが、まだまだ肉付けが必要だし、初心者用・中級者用・上級者用の3種類を整備しなくてはならないのではないかと思っていま
す。
自分が保有している技術をどうやって伝承していくか、教育のあり方や考え方を自分自身、模索しているところです。
では最後に、若手社員に伝えたいことを教えて下さい。
溶接においては勿論、どんな仕事をやっている若手社員も同様ですが、仕事をしていく中で『こんなもんでいいや』というのは絶対にありません。向上心を
常に持ち、天狗にならないこと。そして仕事に対して“興味”を持ち、わからないこと・もっとよく知りたいことがあれば先輩や上司に必ず聞くこと。そして自
分でもチャレンジ(実践)してみること。これは必ず頭に入れておいてほしいと思っています。
特に機械製造部門の若手社員には、技能コンクールなど社外の技術者と関わる大会へ積極的に参加してほしいですね。そして、周りの他企業の技術者がどの
くらいの技能レベルにあるのか、それに追いつくにはどうしたらいいのかを考えることで自分を磨いてほしい。
入賞できなくても、失敗してもいいんです。とにかくチャレンジ精神を持ってほしいと思います。